過日国際通信社のコマンドマガジン付録ゲーム「スパルタクス」をプレイしたので報告する。
「スパルタクス」とはBC73年の共和制ローマに起こった剣奴の反乱である。剣奴と言えば主人公が剣奴に身を落とし復讐を果たすという「グラディエイター」という映画が最近あったが、大半描かれる剣闘士生活そのものである。なお、スパルタクスは剣闘士の反乱の首謀者であり、反乱も「スパルタクスの反乱」とか呼ばれ、スタンリー・キューブリック監督、カーク・ダグラス主演で映画化されている。
さてそんな歴史の香りぷんぷんするゲームを我々がプレイするわけだが、今回のプレイには思考実験的というか歴史再演というかそういう陰謀的な狙いがあって願ってスパルタクス側のプレーヤーにはK氏にお願いし筆者がローマ軍をプレイすることにした。
K氏はリプレイには度々登場している人で、ボードシミュレーションゲームにおいては史実にこだわらずそのゲーム性に重きを置いて勝利を目指してプレイしてくれるので前知識のない場合、自分で歴史(物語)を作るべく奮闘する。
さて筆者の狙いは歴史の後知恵の無いスパルタクスはどういう行動に出るか?強力なローマ軍の前にどう鎮圧されるかと言うことである。
さて壮大な実験はいかなる結末を見るのか。
プレイ開始。
K氏はルールの説明を聞き終わり、相も変わらず自軍のユニットを強いもの順に並べはじめ閲兵活動を開始している。なお、このゲームに限らずどのゲームでもそうだと言うことを付け加えておく。なお、このゲームはスパルタクスの蜂起から開始し、各エリアの支配を巡って争う。スパルタクス側は土地の支配、ローマ軍団の撃破、ローマ軍リーダーの殺害、剣奴が生き残る等が得点の対象となっている。もちろんゲームの展開が冗長なものとならないようにサドンデスとしてローマを占領すればローマの敗北であるし、スパルタクスが殺害されればスパルタクス側の敗北となる。
閲兵活動を終えたK氏は戦略目標を与えられ、野に解き放たれた猛獣のように血を求めた。果たして大地は朱に染まるのか?
第1ターン:
このターンは剣奴がカンパニアで蜂起したターンである。もちろんそれに備えているわけではないのでローマ軍は遙か彼方にいる。サドンデス目標のローマは無防備に等しい状態で彼ら剣奴の前に晒されている。第1ターンは特別ルールにより、スパルタクスはこのターンを蜂起とカンパニアの占領に当てられているためローマ軍の反応から始まることになる。地理的な状況からいうとカンパニアの隣がラティウムという属州でラティウムの中にあるサブエリアがサドンデス対象の要塞都市のロ-マである。カンパニア内にもサブエリアがあり、ネアポリスという要塞都市がある。両要塞都市にはローマ軍の守備隊が存在している。ローマの存在する属州の隣で反乱が発生するということはローマプレーヤーには大いに脅威である。
ローマプレーヤーには2線クラスの正規軍団とは見劣りのする守備隊がローマに存在し、他はネアポリスに予備軍団とメッシナに小兵力があるくらいで、正規軍団は北イタリアに展開している。他の正規軍団は増援として登場する。
取りあえずワンクッションでローマには来られないので北イタリアに展開する正規軍団を急遽呼び戻さなければならない。ムティナの正規軍団は南下した。「いざ鎌倉へ」である。
第2ターン:
スパルタクスは補充とアップグレード後、地歩拡大のためにカンパニアからルカニア(カンパニアの南)とヒルビニア山岳地(カンパニア東)に展開させた。剣奴が新たな属州に進入すると反乱チェックにて反乱軍ユニットや反乱軍リーダーが新たに受け取れるようになる。反乱状態となった属州は反乱軍ユニットの補充やアップグレードが可能となる山岳地は反乱軍ユニットが受け取りにくいが、投石兵という兵種が得られる。今回あえてK氏がヒルビニアに進入したのは投石兵欲しさのようであった。
ローマ軍は取りあえず北イタリアの軍団を円滑に移動させるためにローマ市で暇そうにしているリーダーを選抜し、アキレニアに派遣し収容した。
第3ターン:
スパルタクスは南下政策を推し進めるようだ。ローマ軍が集結する前に奴隷兵の頭数を増やしたいらしい。もしかすると何か別の策を思いついたのかもしれないが、意外と南方王国だけかもしれない。
ローマ軍は戦力を集中しないことには意味がないのでローマ/ラティウムに戦力を集中する。戦力が集中し再編後仕掛けることにしよう。
第4ターン:
スパルタクスはさらに南下を続ける。が、ラティウムにローマ軍が集結し、ネアポリスにはローマ予備軍団が籠城しているので兵力が釘付けとなってしまっている。
ローマ軍はサムニウム山岳地に2個軍団を前進させ、反乱軍が分割されたローマ軍を各個撃破できる機会と捉えこれを攻撃した場合はこれを捕捉撃滅し、依然ラティウム-カンパニア間で対陣が続く場合にはラティウムの軍団と併せカンパニアを攻撃する構想を練った。
第5ターン:
スパルタクスは一大決断を迫られた。カンパニアを保持するか失うか。攻勢か防御か。南ではさらに勢力を伸ばすためにシシリー島への上陸を開始した。メッシナ海峡は特別ルールで渡海に制限が加えられている。海峡の両側を支配下に置かない場合、いかだで渡海せねばならないが、すさまじい損耗を覚悟せねばならない。その代わりシシリー島での反乱チェックは2ダイスでチェックするのでそれはそれで魅力である。
シシリー島でのいかだ渡海は絶望的な結果に終わった。リーダーこそ生き残ったものの渡海失敗。部隊は海没するもの、上陸に成功しながらローマ守備隊に撃滅されるもの多数あり、とても1900年以上後にドイツ軍のフーベが成功したとは思えないほど非惨劇であった。
さて北のスパルタクスは分散している今が好機と考えたかやはり攻撃をかけてきた。この辺はプレーヤーの個性が出るところだろう。結果は南と同じくさんさんたる結果でローマ軍団兵の精強ぶりをとくと知ったに違いない。
第6ターン:
スパルタクス軍は四散した。誤算はローマ軍のパワーである。真正面からぶつかった場合第1線は崩壊し、打撃を与えられない場合同じく第2線も崩れる。戦闘のシステムは歩兵が戦列を引き射撃部隊が間接攻撃をし、歩兵部隊の先頭列のみが近接戦闘を繰り返すといったもので、基本は自分の攻撃力以下の目を出せば攻撃に成功するというものである。なお、リーダーを前線に配置し有利な修正を得たり、攻撃の結果突破や側面攻撃が発生したり、ガリア・ゲルマニア兵が凶暴化する可能性があったりと古代戦らしい戦術テイストを味わえるようになっている。
このターンは前ターンの打撃を補充したり配置変更などをしたため大きな動きはなかった。ローマ軍にはさらに軍団が増えた。
第7ターン:
スパルタクスは復活を果たすため敵中に孤立し戦略的自由度を奪うネアポリス攻略に乗り出した。もちろんローマ軍はその企図を粉砕すべく救援軍を送り出した。会戦は当然のことながらローマ軍の勝利。スパルタクスがいたことで早い時点で敗走することなく退却に成功。どうやら遅まきながらスパルタクスの能力に気がついたらしい。スパルタクスは剣奴の中でも戦術面、カリスマ面等でずば抜けており、それをうまい具合に利用しないと反乱軍は勝利できない。もちろん戦術面の能力をもってローマ軍を撃破するのも一興だが、それは表面上の勝利にすぎない。さてK氏スパルタクスはどこまで気がついたのか。
第8ターン・第9ターン:
スパルタクスはサドンデスを狙うローマ軍団兵に追われローマに近いサムニウム山岳地に展開をした。反乱軍もサドンデスを狙うのかとも思われたが第10ターンまでにローマを占拠できないとあきらめ南に反転した。第10ターンにはローマ軍には選択増援としてクラッススをはじめとするローマ軍6個正規軍団がやってくる。ただし、この増援は選択といっても自軍の勝利得点をマイナスすることで選択する。クラッススの増援を希望すると13ターンのポンペイウスのローマ軍団4個正規軍団ももれなくついてくるクラッススは大軍をポンペイウスは精鋭を引き連れてくる。
第10ターン:
スパルタクスは南方を重視し生き残り戦略をとるようだ。カラブリアに触手を伸ばした。アップグレードも順調である。
ローマ軍はクラッススが来たことで勝利得点がマイナスされようがお構いなしに喜んだ。あの三頭政治のクラッススである。戦術能力のあるリーダーは手放しでうれしい。
第11ターン:
スパルタクスの能力でずば抜けているのは戦闘回避である。2/3の確率で戦闘を回避できるということは強力なローマ軍相手には有力な能力である。この能力をほとんど生かせなかったスパルタクスは史実より悲惨な道をたどるに違いない。
クラッスス率いる大軍はカンパニア経由でルカニアに到着。その他大勢のローマ・リーダーは先行してアプリア(ルカニアの東)のスパルタクス率いる反乱軍主力の滞在するを侵入させた。スパルタクスは戦闘回避をはかるがこの期に及んで失敗。クラッスス以外のリーダーで構成されるローマ軍先遣隊はスパルタクス率いる反乱軍主力と交戦、深刻な被害を被るもスパルタクス軍は殲滅され潰走。反乱軍は戦闘でも退却でも失敗し再起不能までに殲滅された。
第12ターン:
スパルタクスはカラブリアで絶望的な防衛戦をするか別の新天地で活路を見いだすかのどちらかだったが、新天地を目指しルカニアへ移動した。もしかするとシシリーに向かいたかったのかもしれないが、この地にはクラッススが大軍で待ちかまえている。この地でもスパルタクスは戦闘回避を選択したがまたしても失敗。後はいうまでもない。史実で伝えられるようになますのように切り刻まれたのだろうか。K氏は惨状に戦意を喪失して投了を申し出てきたので受け入れた。たぶん囚われの将兵間では「俺がスパルタクスだ」ではなく「あいつがスパルタクスだ」「あいつだあいつだ」と囁かれたことであろう。
プレイを顧みると史実より反乱が小規模であったのは南方に固執しすぎたためであろう。反乱軍が主導権を握るためには史実同様に大胆に北イタリアまで強行軍や戦闘回避を駆使して戦域を南部に限らずイタリア半島全土に広げローマ軍団を右往左往させるべきであっただろう。K氏が南部に固執したのはシシリー島に何かを見いだしたのだろう。しかし勝利の女神はそれを許さなかった。彼は普通の戦略級ゲームとは大幅に感覚が違うので戸惑っていたようだ。
結局大地は剣奴の血で朱に染まった。
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