パウルス第6軍(SA10)内容紹介
このブログの性質上長くに渡り更新されないことはよくあることですが、今回は筆者が入院していてゲーム関係のプレイングが出来なかったので、その停止期間中がもろに執筆活動に響いてしまいました。今回治癒したようですので更新再開です。
一応月に2回ぐらい(隔週)更新できたらいいなあと言うようなブログですので、事情も知らずに来てくださった読者の方々には誠に申し訳ありません。
最近ですが、やはりウォー・シミュレーションゲーム関係のWEBやブログ等は熱心な方が沢山おられて頭が下がる思いですが、やはりお互いに尊重しながらも刺激し、啓発しながら活動を継続することが望ましい事だと思います。
さて、今回のお題は去年プレイして記事にもあげたが、その中で日を改めて旧作との違いを比較したいとか何とか書いていたパウルス第6軍を検証する。
前記事において第5代目とも言えるスターリングラード戦のゲームだと言われながらも、前作のスターリングラードポケットとの違いがデザインコンセプト以外は漠然としていてよくわからなかった。他に何が違うのだろうか?
ゲームデザイナーの記事やブログの中ではデザインの経過は語られていたが、結果の全てが語られているわけではなかったので、どこからどこまで同じで何がどう違うのか明らかにしたいと思う。
別に前作との違いが明らかにされていないのはデザイナー側の問題と言うことではなく、どのメーカーや出版社の再販ものやデザインし直したものは改善点や変更点などで端的に語られることはあっても詳細に語られることはない。もしかすると語るための紙面というものがないのか足りないのかもしれないが、レビューとしてはプレーヤーサイドやコレクターサイドにも需要があるものではと思ってしまうことがある。
自分のブログの分析で、人気のある記事というのは珍しいプレイの少ないゲームのプレイ記事ではなく、再販されたゲームの旧版との比較した記事が人気があったりする。そう考えるとその需要を満たさなければならないのではないだろうか?
本記事も久しぶりにその線を狙ったものである。
結論から書くとパウルス第6軍(以降本作)は旧作スターリングラードポケット(以降旧作)とはシステム上全く別物と言える。タイトルを変えたのは非常に納得である。
ただしコンポーネント上は特にマップにおいては旧作のマップとほぼ同じであるので、プレイしたことがあるならばユニットを配置する際に旧作を思い出したり既視感にとらわれるかもしれない。
ところがプレイを始めると全くプレイ感が違うので何が違うか細かく見ていきたい。
ユニット
まずユニットから見てゆこう。ユニットは大きく変えられた項目が2点あり、これはデザイナーズノートにも書かれている項目だ。
- ソ連軍カチュ-シャユニットが無くなり砲撃ポイント化
これは30個あまりものカチューシャユニットが削減されることにもなるが、使い捨てのユニットのためプレイアビリティを考えるとポイント化して正解だと思う。
- ソ連軍軍団ユニットの新設
旅団ユニットを集成しマルチステップの軍団ユニットに変更された。これは約40個もの戦車旅団などのユニットを11個の軍団にまとめたもので、旧作では旅団ユニットであるが故に当時のソ連軍にあるまじき柔軟な盤上戦術が出来たためにこれを改定し、強力なユニットであるがスタック価の為に融通の利きにくい運用しにくい軍団ユニットになった。
以下は深く語られなかった改訂項目である。
- ユニットのデザイン変更
ユニットのデザインが変更され、能力値は黒字あるいは白字となった。フォントのサイズは若干小さくなり視認性はどちらが良いとは判定が難しい。図は能力値が赤字がスターリングラードポケットの第6装甲師団の1ユニットで、能力値が黒字がパウルス第6軍の対応するユニットになる。
ユニットの地色が変更され、ドイツ軍はフィールドグリーンに近くなった。写真ではグレーにしか見えないかもしれないがもう少しグリーンっぽいグレーだ。
兵科記号のサイズが少し小さくなった。その為師団番号や配置コードは見やすくなったが、兵科記号内の色別で所属軍・軍団が類別できるが色味によっては識別しにくい色がある。これは前作から変わっていないが、薄暗い部屋や照明色によっては小さいが故にちょっと見にくい。
- 司令部ユニットの変更
補給線の問題等で制約を与えられていたソ連軍司令部ユニットが能力を見直され指揮範囲などが変更になっている。
ドイツ軍司令部はユニット数が増えて非包囲時の柔軟性が高められている。
- 騎兵旅団の変更
地形コストの増大(後述)に伴ってかソ連騎兵旅団の移動力が+1向上しルーマニア騎兵旅団移動力は+2向上している。またシステムの変更により機動フェイズに動ける事を示す機動帯(カラーバンド)が無くなった。騎兵の地位低下とも言える。
- 戦車旅団変更
ソ連軍戦車旅団の攻撃力や防御力が再評価され、移動力が+1された。
- 歩兵師団変更
ソ連軍第308歩兵師団他10個師団の攻撃力と防御力が再評価された。また2個師団が新たに加わった。
ドイツ軍歩兵師団の移動力が見直され+2された。特に第60自動車化歩兵師団と第3自動車化師団の能力値が再評価された。空軍地上師団ユニットは連隊規模から集約され師団規模になった。
またルーマニア軍第1歩兵師団他3個師団分の攻撃力や防御力が再評価された。
- 装甲師団変更
ドイツ装甲師団の移動力が見直しされ、移動力が+3されるようになった。また師団内にある装甲擲弾兵とされていた兵科シンボルが歩兵に変更されているものがあった。
特に第6装甲師団は部隊が追加され部隊名が変更された。第22装甲師団は攻撃力や防御力が再評価されている。
またルーマニア軍の装甲師団は旧作では3ユニットで連隊規模だったが、1ユニット師団規模に集約し能力を再評価された。
- ドイツ警戒大隊変更
ドイツ軍にある警戒大隊の数が変更になり移動力が変更になった。
- その他ユニット
以下のユニットの能力値やシンボルが変更・追加されている。
ソ連軍ウィニツァ歩兵学校生徒隊能力値見直し
ソ連軍独立重火器歩兵旅団兵科シンボル見直し
ソ連軍第1親衛戦車連隊能力値見直し
ソ連軍第8自動車化騎兵連隊新設
ドイツ第503重戦車大隊ユニット追加
ソ連軍でダブっているユニット除去
補給物資ユニット増加5→12
以上ユニットのみを見てきたが、システム変更に伴う変更が大半を占めている。部隊の戦闘能力が微妙に変化し調整されているのは史実の反映かバランス調整か何らかの理由があるものと思われる。こういう細かいところまで手直しされていたと言うことは驚きである。
マーカー
前作でマーカーは補給切れ、移動済み、戦闘済み、ゲームターンの4種しかなかった。本作においてはシステムの変更と最近のプレイビアリティを向上させる等の観点からマーカーといえども手抜きされなくなった。
前作との違いを列挙すると
- フェイズマーカーの追加
前作では無かったので移動時のオーバーランか機動フェイズのオーバーランかわけがわからなくなったことがあった。もちろん移動済みや戦闘済みマーカーの置き方で区別できると言えば出来るが得てしてその手のマーカーは足りなくなるものだ。フェイズさえわかっていれば何とかなるが、それすらも忘れてしまうという方はどないしようもないが、無いよりはあった方がはるかにましだと思う。特に本作は部分的に複数回移動したり、敵フェイズに移動する機会があるので、必須と言える。
- 予備部隊マーカーの追加
前作にない予備部隊のルールのため必須となったマーカー。予備部隊になるペナルティが気になるところだが、マーカーに記されているのでド忘れしても安心。
- 混乱マーカーの追加
これも今作で追加されたユニットの状態で、退却してしまったユニットが一時的に能力ダウンする状態を表したもの。混乱状態のペナルティもマーカーに記されている。
- ソ連軍勝利得点マーカーの追加
シナリオの勝利条件の変更でソ連軍の勝利得点の判定で勝敗を決するものがあるのでこのマーカーが追加された。
- ソ連軍攻勢補給下マーカーの追加
ソ連軍の補給物資を消費することにより攻撃が有利になる「攻勢補給下」の司令部をあらわすマーカー。効果は書いてない。
- 補給切れマーカーの変更
本作の補給切れの状態は3種類あり、段階的に能力が低下する状態を表している。その全てに補給切れのペナルティが記されており、一見してどの状態かもわかる。このマーカーは師団以下のレベルに適用されるが、軍団レベル専用の補給切れマーカーもあり、軍団レベル専用か、どのレベルか一見してわかるようになっている。
- 攻勢準備砲撃ポイントマーカーの追加
本作では数が多いカチューシャユニットが省略され、このポイントマーカーとなった。ポイントマーカーの裏には砲撃ポイントが記されている。
- 汎用マーカーの追加
ちょっとした状態や特定のポイントを指し示す「何でも使ってください」的なマーカーが入っている。普段は必要性を感じないが必要なときは他のゲームをひっくり返したりしてしまうのでプレイアビリティの補助という意味で評価したい。
- 移動済み/戦闘済みマーカーの変更
ルールブックに記載はないがデザインが変更となり、旧作の素っ気ないデザインに比べると大幅な進歩ではないだろうか。
ゲームマップ
ゲームマップはシミュレーション・ウォー・ゲームにおいて最も目に触れやすく、綺麗なマップと言うだけで購入意欲が湧いてしまうものだと思う。
最近のデザイン/印刷のデジタル化の波はこのホビーをも呑み込み、職人芸とも言えたマップデザインが一アマチュアの手でも同レベル以上のものが作れてしまう可能性が出てきた。もちろんデジタル化が故にプロジンとは言え、つまらないミスというのも出てきてしまっている。その辺は他のジャンルでもあるようにデジタル化の功罪というやつだと思う。
しかしマップというインターフェースはヘックスやエリアで描かれた地図だけではなく、ターントラックやCRTなど配置せねばならなかったり、描かれている地形がわかりやすく見やすくなければならないという中々難しい側面がある。
1.マップ
旧作との相違点は以下の通りである。
- 大河であるチル河が新地形「河」へと変更
前作はチル河は大河であり河の向こうにはZOCが広がらなかったが、河という新地形で修正のキツイ小川という扱いになりZOCが広がるようになった。これは大きな変更点で、旧作をプレイしたことがあるプレーヤーは間違えがち。
- スターリングラード制圧地域が無くなった
第51軍団のスターリングラードからの離脱が緩和されたために物資空輸の中止ルールが無くなったので、関連するスターリングラード制圧地域という表示もなくなった。
- 町名に日本語読みがふられた
英文表記されている町名は時には全く読めない場合があり、レビューを書く際や作戦研究で書く時などはちょっと困るときがあるだろうと思う。日本語表記だけで良いという意見もあるかもしれないが、他の戦史本や地図と照合したり調べたりするときに英文表記がないと日本語読みだけでは如何ともしがたいので英文表記は必須だと思う。そういうわけで英文表記+日本語読みは歓迎されることだと思う。
- 独軍の増援出現箇所/補給源が増加
この辺は盤端に突進するソ連軍対策か、バランス調整のためかかなり増えている。
- 盤端及びルーマニア第7軍団付近の道路が増加
上記ドイツ軍増援出現箇所/補給源が増えたのに伴って、ドイツ軍側の盤端は道路がかなり増えた。また道路過疎地域であったルーマニア第7軍団配置付近の道路が増え、この地域の機動の便が図られた。
- ロゴ字あたりの盤端側ヘックスが無くなった。
マルチステップの軍団サブカウンター置き場が必要になったのに伴い、ソ連軍後背地でもある盤端ヘックスが大幅にカットされた。
また、ソ連軍側の盤端は特に補給源ヘックスを中心にカットされており、それに伴ってスターリングラードポケットでは存在した村落がパウルス第6軍ではオミットされて盤外となっている箇所が何ヶ所かある。
- 地形の表現が結構今風になった。
地形の表現が旧作ではベタッとした表現だったが、本作は森などは写実的なテクスチャーとなり、最近の作品だと感じることが出来る。最近の山崎スタンダードな仕上がりだと思う。また自己主張の激しかった村落の表現はやや押さえられている。地名表記も前作に比べ大人しい仕上がりで、全体的にうるさくない方向で仕上げられているのだろう。
写真は左から本作・旧作。
- 両軍の配置エリアの表示が変更
配置エリアの表現は旧作では破線で書かれていたが、一部わかりにくい箇所があったりしていたが、本作では実線と破線の二重線となり、さらに配置できる箇所が明確にわかるようになった。
- 暖色系クリーム色から寒色系の地紋に変更
かなり旧作と並べると印象が変わる。本作の方が雪原のイメージが出ている。旧作は旧作で出た当初はそれなりに評価されたり批判されていたが、デザイナーの言うとおり最も情報量の多いスターリングラード地方のマップには違いない。
パウルス第6軍は上記にあげた変更点を除くとほとんど変わっていない。全面改訂や刷新の必要がないほど出来がいいのだろう。
2.地形効果表
地形効果表は大体覚えてしまうので、しょきや久しぶりにプレイする場合を除いてそんなにしょっちゅう参照することが無くなるチャートだが、このチャートに例外や参照項目が書いてあるとプレイがスムーズになる。
本作の変更点は
- 地形効果表の向きが変更
両プレーヤーどちらもが参照しやすいように(あるいはどっちかが不利にならないように)なっている。
- 移動コストの変更
移動コスト半減以下の地形が減った。逆に町などは増加した。
- 戦闘修正の方法が変更
防御力×3などの表現から防御力+2等になった地形が多い。
3.ゲームターン及びターントラック
旧作では2日で1ターンとなり15ターンのゲームだったが3日で1ターンの12ターンのゲームとなった。タイムスパンが変更され1ターンの変化が大きくなるが、システムを変更されているため一概に大幅な変化とはなっていない。
旧作ではシナリオの開始時期と増援の有無が記されていたが、本作ではドイツ軍補給物資の空輸有無のターンが記されている。
4.CRT(戦闘結果表)
CRT(戦闘結果表)の相違点はゲームの違いを際立たせるチャートであり、ちょっと違うだけでガラリと変わってしまうケースもある。また最も参照するチャートであるが故にアラがあるとそのゲームの評価を決定しかねない致命傷となる。
本ゲームの相違点をまとめると以下のようになる。
- 5:1や6:1など1コラムとしてまとめられている箇所が各々独立
- 3:2のコラムが出来た
- A1D2r2の表現から4/1へ変更
- 損害が出やすくなっている
- エリミネイト(全滅)が導入
概ね損害の出方がバリエーションが増え、さらにやや前作に比べブラッディとなっている。表現方法が大幅に変わったこともあって全く別のゲームだと言える。
5.空輸判定表の変更
月別の判定表が統一された。旧作では11月と12月で分かれていた。また旧作では大きい目を出すと補給物資が獲得できたが、本作では小さい目で獲得できるようになっている。
6.潰走ユニットボックスの追加
ルーマニア軍がカチューシャによる攻勢準備砲撃で全滅したときは一般的に言われる全滅ではなく潰走という状態になったものとして扱われ、次のターンに復活するようになっている。前作では吹っ飛んだやつはそのままでその様なボックスはないが、本作で一時的な壊滅としてとらえているところが興味深い。
7.増援ユニット置き場の追加
忘れてしまいがちな増援ユニット。プレイ中に思い出してユニットトレイから取り出したりするのはありがちな光景だろう。ゲームの中にはターントラックに置き場所があったりするが、本作ではターントラックではなく各プレーヤー盤端側にターン毎の増援ユニットを配置する箇所が設けられている。
しかしそれでも忘れてしまったり、ガサついプレーヤーはプレイに熱中しすぎて肘やお腹で美しく並べられたユニットを崩壊させてしまうのもよく見られる光景。
8.ソ連軍軍団ユニット一覧追加
ソ連軍の軍団というカテゴリーが増えたことに伴って軍団ユニットのサブカウンターが増えた。サブカウンターの困ったところはその置き場だ。しかも出血の多い戦いではしょっちゅうサブカウンターを交換しなければならなかったりするので、その管理も含めて邪魔臭かったりする。
そういう邪魔臭がりには置き場にサブカウンターを配置するのが最も楽ちんだろう。ただしそのサブカウンターを配置するという手間は減らないのが難点。
9.ソ連軍勝利得点表示欄追加
シナリオでソ連軍の勝利得点を判定するシナリオがあるので追加された。
10.壊滅ユニットボックス追加
前作ではこの置き場は無かったが、本作では追加された。
以上ゲームマップでは色々新しいシステムによって追加された項目と、プレイアビリティやユーザービリティが計られていると感じた。マップのフィールドのみ流用し改良したような印象があるのは仕方ないことだろう。
ゲームシステム
1.ターン構成
改訂版であれば大きな変更はないととらえがちだが、本作では大胆とも言えるシステム変更が行われた。どのように変更されたかは以下のターン構成を参照されたい。比較しやすいように実際のフェイズの名前と違うものがあるが了承されたい。
旧作
ソ連軍補給判定フェイズ
ソ連軍移動フェイズ
移動及びオーバーラン
増援
ソ連軍戦闘フェイズ
ソ連軍機動フェイズ
ドイツ軍補給判定フェイズ
ドイツ軍移動フェイズ
移動及びオーバーラン
増援
ドイツ軍戦闘フェイズ
ドイツ軍機動フェイズ
本作
ソ連軍移動フェイズ
司令部の転換
増援
移動
予備指定
オーバーラン
司令部の移動
ソ連軍戦闘フェイズ
ドイツ軍対応フェイズ
対応移動
増援の登場
ソ連軍突破移動フェイズ
ソ連軍補給判定フェイズ
ドイツ軍移動フェイズ
移動
予備指定
司令部移動
ドイツ軍戦闘フェイズ
ソ連軍対応フェイズ
ドイツ軍突破移動フェイズ
ドイツ軍補給判定フェイズ
機動フェイズが無くなり突破移動フェイズに名を変えたが、機動フェイズは機動帯のあるユニットで、フェイズ開始時点で敵ZOCにいないものが2回目の移動/オーバーランが出来るというものであった。突破移動はフェイズ開始時点で敵ZOCにいないものの中で予備部隊に指定されていたものは全力で移動でき、それ以外は移動力の半分で2度目の移動/オーバーランが実施できると言うものだ。前作は単純にフルで2次移動できたものが、本作ではかなり制限されている。特に騎兵部隊の扱いは大きく変わったといえる。
さらに対応移動が新設された。対応移動はドイツ軍なら装甲/装甲擲弾兵/自動車化歩兵/突撃砲のいずれかで構成される2スタックのみで、ソ連軍は戦車/機械化/自動車化狙撃兵/オートバイのいずれかの2ユニットとなっている。独ソ両軍の戦術能力の差をあらわしているが、さらにソ連軍は通常の補給線が設定できなくてはならない上に半分の移動力しか使用できない。
また補給判定フェイズがターンの始めでなくて最後の方に判定するようになっている。個人的には先に判定するより後に判定する方が好みだ。
2.ZOC
ZOCはゲームプレイするときに補給線と共に押さえておかなければならないゲームシステムの肝であり、ZOCに対する認識がずれていたり誤解があるとゲームが破綻することがある。新旧の違いはここでも明白で別システムであることが明確になっている。
旧作
- 追加2移動力消費で離脱及び移動継続可
- ソ連軍の機動能力を持たないユニットのみZOC TO ZOC禁止
- 開始時に敵ZOCにいるユニットは機動フェイズには動けない
- 開始時に敵ZOCにいるユニットはオーバーランが出来ない
- 敵ZOCにいる味方ユニットはZOCの効果を打ち消さない
本作
- 追加3移動力で離脱可
- 追加3移動力でZOC TO ZOC可(独装甲・装甲擲弾兵・突撃砲)
- 予備及び混乱の部隊はZOC進入禁止
- 開始時に敵ZOCにいるユニットは対応移動が出来ない
- 開始時に敵ZOCにいるユニットは突破移動が出来ない
- 敵ZOCにいる味方ユニットはZOCの効果を打ち消す
新旧で大きな違いは敵ZOCにいてもオーバーランが出来るようになった事と、ZOC TO ZOCできるユニットが制限されたことだろう。共に開始時に敵ZOCにいる場合は二次移動とも言える行動が出来ないのは同じだが、旧作の独ソ両軍のZOC TO ZOCできるユニットが多すぎテクニカルなテクニックが抑制され、オーバーランの選択肢が増えたことや撤退時に柔軟性が増したと言えるのではないだろうか。
3.スタック
スタックの違いは大幅にプレイ感が変わるので旧作と本作の違いを明らかにすると以下のようになった。
旧作
- 3ユニット計6ステップ(4ユニットを越えてはならない)
- 敵スタックの内容は戦闘解決時以外に調べてはならない
本作
- 4ユニットあるいは4スタック価
- 敵スタックの内容はチェック可
スタック出来る数が変更になっているので戦力集中の度合いが変わるのは明白で、機動力に勝る側が戦術的に優位になれることだろう。また旧作であったスタックの内容をチェックできない項目はチェックできるようになり、まあ慣れ親しんだ作戦級になったと言える。
4.戦闘後前進
戦闘後前進は作戦級ゲームにおける突破へのギミックである。ゲームによっては過激なルールで崩壊を誘うものがあるが、大抵は大人しく空いたヘクスに前進というやつが大半だ。旧作と本作を比較すると、旧作では機動帯を持たないユニットは1ヘックスの前進のみだが、機動帯を持つユニットはCRTの結果によっては2以上最大5の前進が可能であった。それに対し本作は徒歩部隊は1ヘックスのみだが、車両部隊は最大3ヘックスまで抑制されている。旧作は過激気味で本作はそれに比べると地味ではある。しかし防御側も限定的であるが戦闘後前進が出来るので過激さは失ったが内容は拡張されたと表現すべきだろう。
5.戦闘結果
戦闘結果はCRTの項目でも書いたとおりA2D2などの表記方法から3/1等のように変わったが、それ以外に前作では後退と戦闘後前進のヘックス数が決められていたが、本作ではステップロスできなかった分戦闘後前進できる(最大3)とあるので、戦線をどれほど保持するのか土地と時間を天秤にかける調整が出来るようになった。
敵ZOCへの撤退時に味方ユニットがいる場合、前作ではステップロスをしなければならなかったが、本作ではステップロスしなくて良いので撤退を強いられても妙な戦闘後前進ユニットによって敵ZOCで被害がなんでもかんでも増大と言うことが抑制されたのではと推察する。
6.混乱と予備
前作に全くなかった状態が混乱と予備状態で、混乱は撤退した場合に発生し、続く突破フェイズに移動力が1/4となり、敵のZOCには入れなくなる。またZOCある敵ユニットにはオーバーランできず、対応移動も出来ない。
予備は突破移動フェイズに全力で動けるように移動フェイズの段階で予備状態を指定する。予備部隊の条件は開始時に敵ZOCにいない、補給切れでない未移動ユニットとなっていて、ソ連軍は軍司令部1個に付き1ユニット、ドイツ軍は4スタックと決まっている。
7.補給
ゲーム上の補給は戦闘を抑制するものであったり、効率よく敵を撃破するためのヒントであったりする。補給が厳しいゲームとは補給線をつなぐのに厳しい条件があるとか、補給物資を消費しなければならないとか補給のマネジメントが必要なゲームである場合が多い。逆に補給のやさしいゲームは盤端から無制限の補給線を繋げれば良いであるとか、補給切れのペナルティが軽いものがあたる。
- 補給源
両ゲームとも盤端とドイツ軍の航空補給があることは同じだが、ドイツ軍側の盤端は補給源が増えており、ソ連軍が攻勢のシナリオでは盤端からの脅威がソ連軍を脅かしている。
- 補給切れ
前作では補給切れは攻撃/防御/移動力全てが1/2となり、補給切れで部隊が除去されることはなかったが、本作では補給切れは3段階となり、降伏する可能性も出てきた。
粘り強くなったがプツッと途切れてしまうような包囲戦の孤立具合が反映しているのだろう。
また補給切れマーカーは補給線が設定できないだけでなく、補給切れのまま移動したり戦闘したりするともう一段階増える事になり、補給途絶+疲労のような感じになった。
- 補給線
ドイツ軍は補給源からソ連軍は盤端から司令部経由で補給範囲内にいればよいと言うのは両ゲームとも共通。
新作では司令部の補給範囲が大幅に拡張されたのと、盤端によっては司令部が存在するものとして処理できるために直接補給線を引くことが出来るようになった。
またドイツ軍は補給切れの際に軍団司令部から4ヘックス以内の「仮の補給線」を引くことが出来れば補給切れが3個になることはない。
- 航空補給
ドイツ軍のみの空輸してランダムに供給される補給源。旧作は5ヘックス以内の味方ユニットに補給を与えることが出来るが、本作は7ヘックスに拡張されている。また前作は範囲内であれば補給を供給できるが、新作では装甲/突撃砲/装甲擲弾兵はダイス判定で供給可能か判定される。この辺は航空補給の不安定さを反映しているのだろう。
第51軍団などスターリングラード攻略部隊
包囲される第6軍の中核部隊第51軍団は史実を再現するためにスターリングラードに留め置かれることが多い。旧作では第51軍団がスターリングラード制圧地域から出てしまうと補給物資の空輸が行われなくなってしまうので、スターリングラードに籠もらざるを得ない。
しかし本作はドイツ軍が本来持っていたポテンシャルを再現しているためその様なルールは存在せず、シナリオ1と3の第1ターンのみ市街地ヘックスより退出できるユニット数が制限されているだけで、スターリングラードに拘束されるルールはない。
シナリオ
シナリオは練習シナリオやクイックタイムで楽しめるショートシナリオやじっくり楽しむキャンペーンシナリオなどがあるのが望ましいと思う。
旧作と本作両方とも同名の3シナリオが存在し、勝利条件が変更されたり変更されている。2シナリオ目の「冬の嵐作戦」はスターリングラード市街の支配とドイツ軍を包囲できたかと言うことが勝敗の争点だったが、新作ではドイツ軍の45ステップ分のユニットの補給線を補給源に繋げられるか否かとなっている。3シナリオ目の「スターリングラード包囲戦」はスターリングラードの保持とドイツ軍のユニットが生き残っている数の多少で決められていたが、本作ではソ連軍の勝利得点とドイツ軍の得点を比較するようになった。
補助シート
旧作になく本作に存在するものの中で補助シートの有無がある。補助シート(プレーヤーシート)はその内容によっては使えないシートもあるが、本ゲームのシートはルールの要約集、シナリオ配置表などが軍別に用意されておりルールブックをめくらなくてもかなりの部分をカバーしている。
プレーヤーシートの有無と作り方によってはプレイヤービリティーの向上が期待できるだけでなく、ゲームの価値を高めるものだと思う。最近のコマンドマガジンやサンセットゲームズのゲームにも導入されつつあるので、本作に付いているのは大正解だとおもう。
カウンターシート、マップ縮刷図
ゲームを長く使うためには丁寧に扱うというのが大事だが、カウンター類は不慮の事故で無くなったりする場合が多い。本ゲームの場合警戒大隊が1つぐらい無くなっても気が付かないかもしれないが、重要な装甲師団や戦車軍団が無くなったらどうだろうか?運良く装甲師団の能力が一律だったり、たまたま描かれたユニットの説明やプレイの挿絵に写真や絵であった場合はいいが、それ以外は途方に暮れるのではないだろうか?
その場合、購入時にカウンターシートをコピー機やスキャナーでとっておいて復活させるというのが手っ取り早いが、ゲーム側でも縮刷図があれば取り忘れに対応できるしプレーヤーに優しいと言えるのではないだろうか?
またマップの縮刷図は例えば作戦研究や検討を行うときにコピーを取ってメモったりして利用できるぐらいのサイズであれば非常に有為な図版となりうる。
以上のようなゲームプレイに直接関係ないが、ゲームコンポーネントを利用した広がりが期待できるのでそういうものが入っているゲームは素直に評価したい。
本作でも雑誌側にその様な図版が見開きあるいはページ全面を使用しているので評価できる。
-------------->
以上軽い気持ちで始めたスターリングラードポケットとパウルス第6軍の比較だが、かなりの部分で変更がかかり、同じ所もあるが別ゲームと言えるぐらい変更されていた。
よく考えれば当然で旧作と本作の間にはデザインコンセプトやデザイン手法までもが変わっており、それが違いとなって現れるのは比較するまでもなく明らかであった。
木を見て森を見ずと言う言葉があるが、こういうゲームの詳細を見るタイプのレビューはゲームの本質を見誤ることなく伝えられるかどうか難しい部分がある。今回は木だけを見てしまったのか森まで表現できているかわからないが、旧作を持っているが新作がどのような変貌を遂げたかわからないという方にはそれなりに利用できる情報では?と思う。もちろん既に両方とも持っておられる方は、新たな発見があるかもしれません。
まあ1つの作品を紹介しするのは難しいなあと再認識しました。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
>別途OFFでお会いするのもいいかもしれませんね。
ありがとうございます。
コメントにメールアドレス登録もしておきますので、体調とご都合の良い時にご連絡などいただければと思います。
WELL THENは、チェックをさせていただき、こちらの都合が合う日はご連絡などさせていただきたく思います。
投稿: takoba39714 | 2007/02/09 22:43
コメントありがとうございます。
実は完治していないんですぅ(T.T)
リプレイだけではこういうような時に手詰まりになるので、時々ゲームの分析記事等を書いていますが、今回は思ったよりボリュームが大きくなってしまいました。
ユーティリティーの部分はブログ以外でも結構積極的に言及していて、価値を上げるためにもわかりにくい・使いにくいは少しでも少なくなればなぁと考えています。
活動はWELL THEN.でhttp://guchiese.way-nifty.com/well_then/
告知していますが、かなり突発的なスケジューリングであることと、いわゆる「例会」ではないので中々気軽にフラッと来られるような環境ではありませんが、別途OFFでお会いするのもいいかもしれませんね。
本屋さんはカウントダウンが始まっていますが、何だか失うのは残念ですね。
投稿: ぐちーず | 2007/02/05 23:59
退院、完治おめでとうございます。
新旧比較、大変興味深く読ませて頂きました。
このゲームそのものについては、私の知識は皆無ですが、デザイン論や、ルールやシステムへの感心に隠れて、従来はあまり表面に出ないユーティリティの部分についてへの言及は、大変参考になりました。
京都界隈でご活動の様子。当方も数ヶ月に一度は、休日をゲームの日とすることがかなうようになってきました。機会が合えば、是非一度お会いいただいてお話など伺えればとも思っています。
ちなみに例の本屋さんは、CMJ今号も販売しております。3月以降はどうなっちゃうんでしょうね。
投稿: takoba39714 | 2007/02/04 07:52