ZAMA(S&T153)プレイ
それはある男の一言から始まった。
「象がプレイしたいなあ。」
その独り言ともとれる一言を漏らさず聞いた筆者は早速ゲームのセレクトに入った。
これが「象とプレイしたいなあ。」
だったらドン引きだったが、戦象の話で良かった。しかし一般人が聞いたら何のプレイだろうと思うだろう。誰もいなかったからよかったよかった。
象と言えばGBOHシリーズのゲーム群が思い浮かべることが出来るが、さすがに所持しているものには象があまり登場しないのと、シンプルならともかくとはいえいきなりフルマップは負荷が重いのでもう少し軽めのゲームを探すと、たまたまあったS&T誌にザマ会戦のゲームがあったのを思い出してプレイすることにした。
ザマ会戦と言えばカルタゴのハンニバルとローマのスキピオがカルタゴの命運を賭けて雌雄を決した戦いである。詳細は他誌あるいはWEBに依られたい。
WEB上にはそのものずばりのザマの戦いがウィキペディアであり、そこを閲覧していただければ背景と詳細は掴むことが出来るだろう。
さてBattles of the Ancient World シリーズの1作として発売された本作はFIRE & MELEEの例に漏れず、移動→射撃→白兵戦というターン構成になっている。また、このタイプのゲームシステムの常として強ZOCであり、マストアタックだ。
カルタゴ軍の違いとローマ軍の違いはゲーム上ではユニットでは大きな違いはない。ローマ側の軍団兵は投槍を装備し、標準化され戦闘力も強い。またカルタゴ歩兵に比べ戦術的柔軟性があるので連鎖後退が可能だ。 カルタゴ軍にしかない戦象は暴走しやすいため、特別な暴走ルールが定められている。
プレイはローマ軍団を熱烈に愛する筆者がローマ側を、武田信玄を愛するK氏がローマに敵対するものであるカルタゴ側をプレイすることにした。いわゆるバーター取引である。ちがうか。
配置は以下の通りになっている。
カルタゴ側は戦象、マゴの部隊、カルタゴ新兵、古参兵の4列に並び、両翼に騎兵という史実同様の配置となっている。マゴの部隊とは指揮官マゴに率いられた傭兵主体の歩兵部隊、カルタゴ新兵とは新規に徴兵したカルタゴの歩兵で、古参兵はハンニバルと共にイタリア遠征などを経験した精鋭の歩兵だ。
ローマ側は横一線に並ぶカルタゴ側とは違い(横一線に違いはないのだが)、間隔を離した配置となっており、各軍団毎に4列隣の軍団とは数列離して配置されている。
最前列のジャベリンを持つ軽歩兵ウェリテスが軍団間の空き列を埋めるように配置されているので4列と言っても少しずれた配置である。
一応指定はされていないが、第1戦列兵ハスターティ、第2戦列兵プリンキペス、第3戦列兵トリアーリィはユニットに表記されているのでその順番で配置した方が良いだろう。特に第3戦列兵トリアーリィは投槍を持たず長槍を装備していたことから、第1,第2戦列兵とは付加能力及び戦闘力を持つ。トリアーリィが投入される戦いはかなりヤバい状況とのキャプションがあったが、ゲームでは縛りがないのでお構いなく投入されるだろう。
軍団は左右にイタリア同盟軍団、中央にローマ軍団2個という感じで並んでいる。
その両翼には左翼にローマ軍重騎兵、右翼にマッシニッサ率いるヌミディア騎兵が配置されている。量でカルタゴの騎兵を凌駕しているのは嬉しいことだ。
このスカスカとも言える配置はローマ軍指揮官スキピオが敵戦象の前線配置を見て決定したらしいが、凡人である筆者は配置後とてつもない不安感に襲われた。
第1ターン:
ゲームは常にカルタゴ側が先攻で、ローマ側が後攻となる。特別ルールにより戦象はローマ軍側のZOCに入らねばならない。その他のカルタゴ歩兵は各々の戦列に定められた開始ターンとなるまで動けない。
カルタゴ軍プレーヤーの戦象は接敵を強制されるので、嫌でも先手を打たねばならない。接敵しなければ戦場から離脱したものとして除去されてしまう。
史実のカルタゴ側は戦象の突進力を利用し、敵陣を混乱させようとしていたので、間違いではない。
戦象は騎兵とチャリオットと同じ様な扱いで、突撃を実施するとその突撃力で粉砕できてしまう。しかしその行動は自身の脆さの裏返しでもあり、身を切らせて骨を断つ様に被害を被ってしまう。このゲームでは攻撃力が2倍になる替わりに1ユニット必ず全滅しなければならないし被害も喰いやすい。
カルタゴプレーヤは無下に戦象を失ってしまうのももったいないので、戦象を冒頭より突撃を取らせ、前線に散開する軽歩兵ウェリテスを粉砕するために前進した。
史実ではウェリテスを一蹴し、第1戦列に到達し、隊形間の隙間が戦象の通り道となってハンニバルが期待していた隊形を崩し混乱させるという意図は見事に外れた。
ゲームでは軽歩兵を半分ほど撃破し、ほとんどが相撃ち、あるいは討ち取られ第1戦列までに到達することはなかった。
上手く行けばローマ側軽歩兵を一蹴し、そのままローマ軍ターンまで存在し敵方の攻撃によってあわよくば、「戦象の凶暴化」ルールにより戦象が意味ある方向に突進すればローマ側に大ダメージを与えるはずだった。
が、双方の期待とは裏腹に戦象は凶暴化することなく息絶えてしまった。ローマ側にとっては万々歳だが、仮に凶暴化したとしても半分の確率でカルタゴ側に突撃するのでそれはそれで面白いかなぁと思っていた。
ともかくカルタゴ側が仕掛けた大博打は戦象の壊滅という代償にて終わってしまった。
第2ターン:
カルタゴ軍は時間を稼がなければならない。なぜならば特別ルールによって各戦列は活性化するターンが決まっているので、攻撃をする場合と受ける場合は各個撃破されないようにしなければならない。
ハンニバルの意図は戦象の突撃によって混乱したローマ軍に第1列を突入させ、次いで第2列を投入し、充分拘束と混乱させたところで精鋭の古参兵の隊列を突入させて戦いを決するはずであった。
が、盤上では戦象の突撃が完全に失敗し、むしろ混乱させられる原因が無くなったローマ軍は間隔の空いていた隊形を間隔のない隊形に変換し(要は間を詰めただけ)、カルタゴ軍側に向かって着実に前進している。このまま行けば横隊同士がぶつかって押し合いへし合いの戦いとなるであろう。
史実ではこの時ハンニバルは騎兵に偽装退却を実施し、ローマ側騎兵の戦場からの吸引を試みた。歩兵と歩兵の戦いのみに勝機を見いだしたわけだ。
盤上ではそんな史実を知るはずのないK氏は騎兵を退却させた。心中「うぉーーーっ!!ハンニバルと同じ手だ!」と思ったが、よく考えたらただ単に騎兵が劣勢なため側面の援護に使うためだった。
カルタゴ軍の騎兵は移動制限が無く第1ターンから好き勝手に移動できるが、そうとは言っても単独で何かできるかと言えば特になく、歩兵の移動制限とからんで用法に困る存在である。
第3ターン:
カルタゴ側は第1列を第2列の後方へ逃がし、第2列の移動制限解除を狙う腹のようだ。第2列は第5ターンの参戦だが、指定ヘックス列へのローマ軍の進入と攻撃を受けたなどの条件も移動制限解除であるので、早期に移動制限が解除されることは、数的な優位と体勢上の優位を得ることが出来るのでカルタゴ軍は当然のようにして狙う。
ローマ軍は当然のことながら慎重に事を進め、統制前進・統制攻撃を実施した。もちろんこのトラップは移動を誤るとカルタゴ側は連鎖後退できないので押しくらまんじゅう(後退)状態で押しつぶされてしまう可能性がある。
ローマ側は敵騎兵が後に下がったことを良いことにヌミディア騎兵を中心にカルタゴ軍左翼を攻め立てる。騎兵で後を閉じているので正面からのイタリア同盟軍軽歩兵の攻撃でカルタゴ側の逃げ遅れた第1列マゴの部隊をポツポツと壊滅させる。
一応古代戦らしいユニットの向きというものがあって正面3ヘックスにしかZOCは伸張しない。後や側面から攻撃されると戦闘に修正が与えられるので非常に脆い。
マストアタックの常で端から攻撃をかける、裏を取る、数的優位を作るというテクニックのため少数でど真ん中からぶち当てられないのがシステムのつらいところ。また裏を取られたくなから延翼運動に終始しがちで、最終的に直線対直線のどつきあいになってしまうのは仕方ないことか。
第4ターン~第5ターン:
カルタゴ新兵は第5ターンよりの行動開始であるが、その前にローマ軍は第1列マゴの兵を次々と血祭りに上げる。
ローマ軍はピルムとジャベリンの2種類の投槍があり、ピルムはローマ軍の第1戦列兵ハスターティ、第2戦列兵プリンキペスが所持している射程が短く、1回こっきりの投槍しか出来ない。ジャベリンはウェリテスやヌミディアの部隊が装備している。射撃は続く敵の防御力を半減させ、戦闘前退却を出来なくすると言うメリットが発生する。カルタゴ側はジャベリンと矢の2種類があり、ピルムのような制限はない。
戦闘前退却ができるのはいわゆる軽歩兵・騎兵のたぐいで、それができるユニットは目印のドットがついている。もちろん移動力で凌駕しているとか混乱していないなどの条件を満たす必要はある。
ジャベリンは射出する機会があれば射出しているが、1回こっきりのピルムはそうそう気安く出せるものではない。従って今までの攻撃はジャベリンを装備するウェリテスや同盟都市の軽歩兵が白兵戦前に支援し、軍団歩兵はピルムを使わずに攻撃に参加していた。
このターンの猛攻でローマ軍はジャベリンと歩兵の正面攻撃でマゴの部隊を崩壊させた。
カルタゴ軍は自軍左翼から回り込もうとするヌミディア騎兵を挙止しつつ、隊列に穴が開かないように隊列を下げる。間一髪でカルタゴ新兵部隊は古参兵部隊に合流でき、最後の持久戦の様相を呈している。
第6ターン~第7ターン:
カルタゴ側は劣勢な戦勢を少しでも緩和するために、後方へ迂回しようとしてくるヌミディア騎兵に打撃を与えようと騎兵部隊を集結し、ヌミディア騎兵への攻撃に転じた。
劣勢なカルタゴ軍にとってローマ軍の騎兵が両翼で分散している間にヌミディア騎兵を破り、後方に回り込めれば歩兵部隊との連携でかなり良い線まで反撃に転じることが出来る。
が、カルタゴ騎兵は史実と同様劣勢であったために、ヌミディア騎兵のみを相手にしても攻めきれなかった。部分的に撃破できても続くローマ軍のプレーヤーターンに予備の部隊に穴を埋められ反撃されてしまうのだ。ローマ側は左翼の重騎兵も右翼側に移動させ、カルタゴ軍の背後へ躍り出る予備部隊として移動させた。
ヌミディア騎兵は元々カルタゴ側であった勢力で、この戦いでヌミディア騎兵がローマ側でなくカルタゴ側であったなら、あるいはどちらにも付かなかった場合はどのような戦いになったのであろうか?
結局、ヌミディア騎兵との戦いで撃退されたカルタゴ騎兵はもとの任務である翼端の守護に転じた。ローマ軍は翼端への機動が叶わなくなったので、最良の位置で激突できるようカルタゴ軍に接近し、最終決戦へと動き出した。
カルタゴ軍は史実のように全軍包囲されなかっただけでも儲けものだが、状態・点差共に覆せる案件が見つからない。あとはローマ軍の勝利レベルを少しでも引き下げるのみだ。
第8ターン~第10ターン:
最初に接敵したのはカルタゴ軍だった。こうなったら死中に活を求めるしかない。カルタゴ軍の被害は甚大で、そろそろ軍士気喪失が現実範囲である。
カルタゴ軍は最後の力を絞った。ここぞという戦いで出目にも祟られローマ軍の陣形を崩すことは出来なかったが、少しでも被害を出せれば儲けものである。
続くローマ軍の攻撃はすさまじかった、まず今まで温存していたピルムを使用し、相手を混乱させ押された分押し返すというかローマ軍軍団兵がガシガシとカルタゴの部隊を削ってゆく。この最中にカルタゴ軍は軍士気を喪失してしまった。
「ああ」というため息にも似た言葉が漏れたが、戦いはまだ続く。続くカルタゴの攻撃では負修正が付いてしまう。まあ回復フェイズに回復できればその戦力値分軍士気が回復するので、復活する可能性もある。
カルタゴの攻撃は負修正が付くためピリッとしない。続くローマ軍の攻撃によって軍士気喪失からの回復は絶望に変わった。ローマ軍の一斉攻撃はカルタゴ軍の中央に大きく穴を開け、突破し続く攻撃の支援をして(ZOCで)さらに戦果を拡大するというNAWの王道戦術を繰り広げた結果、葬った部隊の戦力を換算すると、軍士気喪失から軍士気崩壊のレベルまで達し、このザマの会戦をローマ軍大勝利に決定づけた。
史実のザマ会戦では騎兵部隊がカルタゴ軍の後方を遮断し、包囲殲滅してしまったが、盤上では包囲殲滅こそならなかったのは残念だが、史実同様十二分にカルタゴ軍を立ち直れないまでに叩きのめした。
特別ルール上勝利するのは当たり前と言えば当たり前だが、何の不安もなしに優位に戦いを進められたのは何と言っても、戦いの主導権を握り続けられたのが良かったのかもしれない。
もちろん、カルタゴ側の戦象の用法にはもう少し検討の余地ありではないかとの意見が出た。あまりに投機的すぎないかと意見だ。
ゲームはベーシックルールと会戦ルールの2本立てであるので、他のBattles of the Ancient World シリーズのゲームをプレイしたことがあるならばプレイは容易だろう。
なお、システムは簡易な部類に属するので、古代戦ならではの指揮統制や、兵種・隊形の差をもっと楽しみたい向きにはややシンプルにして大雑把である。しかしサクッと古代戦を楽しみたいとか言う場合にはここまで簡単なゲームはあまりないので、そういう意味で重宝するだろう。
ゲームはターンが12ターンであるのにかかわらずターントラックが10ターンまでとか、ZOCと隊形とマストアタックの関係について言及が足りないなどの部分があるので、プレイ前にブリーフィングは必須だろう。
今回はヒストリカル配置でヒストリカルな移動制限を採用したが、ヒストリカル配置・移動制限無しや、自由配置というのもザマ会戦の可能性を検証するのには興味深い。
最後にザマ会戦では言ってみたかった事があるのでボソッと言ったがものの見事にスルーされた。
「ザマーみろ。」
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