4月の活動
今月は先月の年度末の余波をもろにかぶった感じで、忙しさに拍車がかかっている。筆者の仕事は目を酷使する仕事であるので、ちょっと前の若さを実感している時期であれば何ともなかったのだが、最近では異常に疲れてしまう。よってゲームに対するモチベーションは激下がりだよ!と女王様風に独白したところで何の解決にもならないので、とりあえずこういう時に便利なアイテムは最近多々とある。
多々と言ってもインドの車メーカーではない。あれはタタだ。こっちのタタは数が多いという意味だ。タがふたつで多。だからタタタタ。
なんのこっちゃ
最近の世間のプレイ環境は、数多い国内出版物の状況を見てもわかるとおり、小型サイズのゲームが多い。この辺は良い/悪いの問題ではなくユーザーの欲するものがそう言う傾向があるという事でこれからも軽/薄/短なゲームは出続けるだろう。もちろんこういう状況がいつもでも続くかと言えばそうでもなく、ペースこそ違えど重/厚/長なゲームも同じくして評価はされ続けると信じている。
筆者なんかはこういう状況は特に「嘆かわしい」とか「ゲーム界の危機」とまでは思っていない。軽/薄/短なゲームは軽/薄/短なゲームなりに存在価値があり、プレイの隙間なんかはこういうゲームは貴重である。
そう言うわけで、ゲームとゲームの合間やプレイするゲームが見いだせない時は重用する。
ドイツ南方軍集団(SPI/SSG)キエフシナリオ
筆者、このウォーゲームというものをやり始めた頃には既にSPIはなかった。ほどなくしてウォーゲームバブルというものが弾けてしまったために欲しかったゲームはほとんど入手できることなく、プレイできるのは西部戦線シリーズとタクティクス誌が付録として出していた星作戦だけであった。
筆者の中では星作戦で扱う第3次ハリコフ戦はパウルカレルの中で書かれていた事よりも鮮烈に印象を与えたゲームの一つだ。
書籍をひもといて読んだつもりでもソ連軍の硬直した指揮統制とマンシュタイン率いるドイツ軍の鮮やかな手腕はこのゲームで体感したと言っても過言ではない。ドイツ軍装甲師団の連隊のスタックによる師団効果や、綺羅星のごとく集結する装甲師団、司令部に拘束され進む方向まで制限されるソ連軍などと柔軟さと硬直さがぶつかり合うその様は当時としてものすごく印象深い。
さて、今回プレイしたキエフ会戦は開戦劈頭のドイツ軍の偉業を体感できるゲームである。クワドリと言っても、最近はやりのミニゲームよりは遙かにハードであり戦場は広い。開戦劈頭の戦いというとどうしてもドイツ軍が圧倒的な優勢で、展開が一方的で面白くないんじゃないかという声も聞こえそうだが、押す側押される側それぞれにテーマがあり同じ条件ではないのでプレイしていて面白いケースがある。
キエフ会戦は突破するドイツ軍に抵抗するソ連軍という図式は当たり前だが、ドイツ軍は片翼から突破し、それを防戦しているソ連軍にさらにもう片翼から突破を受け、折からの死守命令のために包囲をされてしまうと言う感じだ。
その戦いを土地の占領を勝利得点とし、それをもって競うわけだ。
筆者はソ連軍をプレイすることになった。
初期配置は既に決まっているところに配置するので、いきなり危機的な状況から始まる。作戦級ウォーゲーマーならでは誰もが嫌がる突出した戦線とその首根っこ部分に攻撃を受けているという状況である。いわゆる「バルジ症候群」という言い方をしているが、攻撃側であれ防御側であれ首根っこに攻撃を食らって包囲されてしまうのではないかという恐怖感の事である。
余談ながら包囲されてしまったりそういう危機の場合は「ファーレーズ」、細長い突破路で側面が心配な場合を「マーケットガーデン」、満を持しての攻撃された場合「コブラ」などと西部戦線に例えてしまうのはなぜだろうか?いやよく考えたら「ハリコフ」とか「モスクワ」とか「スターリングラード」とか言っているので単なる気のせいだろう。
閑話休題
このゲームのソ連軍は別に突破をしているからバルジが形成されたのではなく、逆に突破された結果バルジとなっているという状況である。タイトルネームにもなっているキエフはドイツ軍側盤端近くに存在し大兵力の攻撃にさらされ風前の灯火であり、ここを争奪するだけのゲームでないことは明白である。
しかもソ連軍は初期配置から既に司令部との連絡線が途絶えている部隊・箇所があり非
常に危険である。連絡線の途絶はすなわち補給線が設定できないことを意味し、戦力半減・移動力半減のペナルティを課される。
幸い、第1ターンのソ連軍はルールで規定されている補給線を設定できる司令部の範囲内の部隊のみ補給を受けられるという例外として特別に補給状態にあるが、2ターン以降は地道に繋いでゆかなければならない。
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第1ターンのドイツ軍はその強力なドイツ軍装甲師団の戦力をもってオーバーランと攻撃をかけてきた。このゲームでは機械化と騎兵部隊が移動力の消費することで移動時の攻撃であるオーバーランをかけることが出来るが、戦力半減で攻撃しなければならない。
攻撃の結果、敵を消滅させたり、後退させることが出来れば移動力が残っている限りオーバーランをかけることが出来る。しかし、自分が被害を食らったり後退してしまった場合はそのユニット/スタックは移動を強制的に終了させられる。
ドイツ軍の攻撃は大した戦果を上げることはなかった。成功と失敗が交互に出てしまったので戦果拡張が思うようにいかず、よく言ってソ連軍の戦線が少し下がったぐらいだ。
「オーバーランの効果がいまいちやなー。」
ドイツ軍を率いるK氏が嘆いた。妄想の中では華々しくソ連軍部隊を蹴散らすイメージを持っていたようだが、ちょっと下がった、あるいは自らが撃退されたために続く攻撃でも思うほど戦力集中が出来ずに、あるいは回り込むつもりが回り込めずに包囲下に追い込んで攻撃するはずがただの力押しになってしまったので、あまり攻撃が進展したと言えないと状況を嘆いた。
こっちとしてはそんなにポンポン飛んでしまったらあっという間にキエフポケットが完成し、残るターンは掃討戦となってしまうという状況は、それはそれでゲームが破綻している。これぐらいがちょうど良いぐらいだよと言うコメントを発して、防衛ラインの引き直し、大抵はもと居た地点に近しい場所に舞い戻って複線化を果たすべく整えた。司令部の指揮範囲に入らないものは増援でやってくるキルポノスの司令部を最南部に起き、その他の部隊は少しずつずらして調整を図った。
キルポノスの司令部はもっとも指揮範囲が長く、敵にとっては撃破すると勝利得点をもらえる重要ユニットであるので、あまり最先頭となる地点には置きたくない。なんと言ってもスターリンの死守命令というものがあって、後ろに移動することが許されなくなるターンがあるから、例えば前の方で陣頭指揮なんかしてしまうと自分が危機に瀕した頃には後ろに下がれなく頓死と言うことが考えられるからだ(司令部は下がれる)。と言うわけで根っこに近い(盤端)所に配置しておけば、いずれ南北からの突破に接しても増援部隊などの支援を受けられるからそれなりに保つのではと考えた。
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ドイツ軍の攻撃は北部の第2装甲集団、とりわけ北東部に重点を置いてオーバーランに次ぐオーバーランでソ連軍の戦線を突破すべく猛攻をかける。
本ゲームではソ連軍が先攻であるので、ソ連軍の重層に配置しようとする戦線に対し攻撃をかけるわけだが、序盤から存在する部隊はその防御力がユニットを見れば一目瞭然だが、増援としてやってくる部隊は戦力未確認部隊、いわゆる「?」部隊だ。この「?」部隊は戦闘を解決する際に初めてその素性が明らかとなるが、中にはとんでもなく強力な部隊がいるかと思えば、めくった瞬間に壊滅してしまうような弱体な部隊も存在し、ドイツ軍にとっては攻撃時の戦力比値踏みが難しいのと、ソ連軍にとっても戦線の靱性をはかる時に評価が難しい。こういう時自分が思っているより攻撃側であれば多めに、防御側の時は少なめに算定すると、精神衛生上非常によろしい。もちろんゲームに勝つためには戦力分布を覚えカウンティング何ぞをやりだすと対戦相手は見透かされたような気がして負けを意識する。もちろん両者が同じようにカウンティングをやり出すとゲームが変わってくるのでそれはそれで次元の違う戦いとなる。
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ドイツ軍は重層なるソ連軍の戦列に攻撃をかけるが、中々有効打を与えられない。しかもこのゲームでは敵のZOCに入れば基本的には抜けられないのでやっかいである。それがあまりにあまりな弱体ユニットであった場合は悲喜劇だ。
それでもドイツ軍の攻撃は猛攻に次ぐ猛攻である。それに対するソ連軍の防御も兵力の投入につぐ投入である。
1ユニットを飛ばすとその倍の兵力があてがわれてくる様を見て、さすがのドイツ軍も閉口気味だ。
自分が突破したいと思っている地点にバラバラッとに兵力を展開され、攻撃をすれば結構な低比率になってしまったりして、ドイツ軍は別の突破口を考えてあちこち弱そうな所を突きだしている。戦力未確認部隊の戦力想定の思い違いを含めかなり萎えているようだ。
それでもドイツ軍はキエフを奪うべく猛攻をかけ、なんとかその足掛かりを築き、半包囲まで持って行くことに成功した。
ソ連軍はキエフの陥落を少しでも抑えるために全包囲を抜け出すべく兵力を前進させ、攻撃を企んでいた部隊を釘付けにするというドイツ軍をして歯がみしつつ「うまい手だなぁ」と言わせしめた。
ソ連軍としては最終的に包囲されるであろうから、少しでも時間稼ぎになるようになってくれればそれに越したことはない。また、キエフ付近はどうしてもプレーヤーの目線から遠いので穴が開きやすい。逆にドイツ軍からは目線が近いので穴を発見しやすい。
むむむむ。
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ドイツ軍の前ターンからの攻撃は西部キエフおよび北西部CHERNIGOVに於いて活発化し、後退するソ連軍ユニットが続出しだした。
キエフは陥落し、逃げ遅れたソ連軍部隊が半包囲に落ち、風前の灯火である。既に陥落を前ターンより予想していたので、それに備えた防御ラインの構築が急ピッチで行われた。
明らかにドイツ軍の攻撃の矛先が、北東部から変わった瞬間であるが、未だ装甲部隊群がほとんど投入されておらず、それにもかかわらず順調な成果を上げたという事は投入された後はどうなるかといった感じであった。
困ったことにドイツ軍が圧力をかけている箇所はソ連軍の増援が送りにくい地点で、送り込めてもただ単に送り込んだだけになってしまう箇所でもある。キエフ戦線との接合部の問題もあり、前に送りすぎると抜かれて小包囲を喰らい続ける可能性があり、後ろ気味にするとキエフ付近の部隊が脱出できずに消滅する可能性がある。
ここはうまいこと兵力を送り、キエフ付近の兵力を収容しつつ壺のようなバルジ状となっている戦線を底の浅い皿のように出来れば、後退の成功と包囲を避けたという事でこの戦いに勝利できるであろう。それともやはり史実と同様に抜き差しならない状況が続き結局は包囲を形成され大量の降伏となってしまうのであろうか?
脳裏にはキエフ捕虜収容センターかのようにまるっと包囲されて大量降伏している状況だけが思い浮かぶ・・・・・
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兵力を送りながら薄いながらも戦線を構築し、事態の推移を見守っていたところ、案の定ドイツ軍の装甲部隊がスライドしてやってきた。しかも本格的にだ。
それもソ連軍の救援兵力を吸引するように隣接するNEZHIN~KONOTOP間の弱体化した箇所に強力な装甲兵力をぶつけてきた。うまいこと行けば救援兵力や主力となっている部隊ごとごっそり包囲することが出来るが、それよりも先にCHERNIGOV付近の突破を促すために揺さぶりをかけるのだろう。
ともかく注意点としては包囲に陥らないように手配するという事で、重要なのはZOCで敵の足を止めるという事だ。強力な装甲師団とはいえZOCから抜けるためにはオーバーランを強いさせることによって移動力を削ることに専心したい。
しかし、今までの戦訓を得ているのか、ドイツ軍は慎重に攻め立ててきた。オーバーランを駆使するのは従来通りだが、特にその順番に気を遣いながら発泡スチロールにホットナイフを突き立てるようにしてソ連軍戦線を食い破り始めた。ドイツ軍の猛攻はキエフ付近の部隊とCHERNIGOV付近の部隊の間を食い破り、特にキエフ付近の部隊の背後ががら空きとなってしまっている。10個近い師団の内半分は敵の包囲下に落ちるであるし、残りの半分では戦線を保持するには難しい。
NEZHIN~KONOTOP間の攻勢はソ連軍の重層な配置の前に攻勢が頓挫したのがせめての救いである。危ないところだった。いやまだ危機は続いている。
現状NEZHIN付近に部隊が集中しているが、このままでは早い時点で攻略を受けるあるいは放棄を決断しなければならないかもしれない。
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ソ連軍は戦線の保持の方が気にかかり、増援部隊にて複線化の戦線を張り、タッチの差でドイツ軍の攻撃の前に立ちはだかった。
ある意味これは危険な賭だった。
次のターンにはスターリンの死守命令が発布され、前のめりで戦わなくてはならないかもしれないからだ。なんと言っても今引いた戦線が末永く保持し続けるとは限らない。
ドイツ軍がソ連軍のZOCに絡まって離れられないのと同様に、ソ連軍もまたその地を離れられないのだ。戦線を短く整理するためには多くの部隊を見捨てなければならず、この決断はタイミングを間違えると崩壊を引き起こす。
しかし、そういう考えてドイツ軍の突破を凌ぐために苦心していたが、重大な忘れ物が存在していた。
今までは白いGすなわちグデーリアン将軍の攻勢に対処していたが、白いKすなわちクライスト将軍の南からの攻撃があることはすっかり忘れていた(と言うか見落としていた)。
プレーヤーズノートにもあるようにソ連軍の防御はグデーリアンの攻撃だけでは何とか対処できるが、クライストの攻撃までは対処できない。それに対して備えるべきであったが、グデーリアンの方がすさまじく攻撃をかけてきたのでクライストまで気が回っていなかった。
プレーヤーズノートには6ターンには西部の部隊を抽出しつつ湿地帯等に予備部隊を置いとけとか何とか書いてあったが、気がつくのが遅かった。
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しかも最悪なことにこのターンより
スターリン死守命令が発令されるのだ。これにてソ連軍は救援ルール等の解除条件が整わない限り現在位置より東に移動することが出来ない。解除条件は難しい条件であるので一連の行動は1ターンタイミングが遅い判断であった。
ドイツ軍のクライストの装甲集団は大量の戦果を夢見てKREMENCHUGを中心に集中して攻撃をかけている。
この地域はゲームスタート時より既に攻撃をかけられている状況だったが、ドイツ軍の隙を突いて背後に回り込み、逆にドイツ軍の攻撃と移動を封じていたのだ。それがあっという間に背後を閉じていた部隊は蹴散らされ、逆に一気に敗勢に陥った。
KREMENCHUG周辺に増援を送り強化に努めるが焼け石に水。ドイツ軍の勢いはとどまるところを知らない。戦線には穴が開いている。NEZHIN付近のドイツ軍も複線化されて突破に時間がかかると思われたが、いつの間にか単線化することに成功し、次のターンには突破できそうな予感を感じさせている。
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時間が来たのでここでお開きとなったが、突破できたにせよ泥濘ターンが続くので突破口が活用できない可能性があること。それでもドイツ軍の攻撃は呵責無きものになり、結果的には小包囲が数カ所形成されるのではないかと言うもので、結論として史実通り、あるいはそれに近い線までいけるのではと言うことであった。
キエフ戦という事でどんなにソ連軍の草刈り場になるかと不安もあったが、それほどでもなく41年頃のドイツ軍の精鋭度を体感しつつソ連軍の無情の統制に悩まされるところが、PGGからのSPI東部戦線シリーズの特色とでも言うべきかもしれない。個人的にはソ連軍の資質が上がってくる43年以降の東部戦線より42年までの独ソ戦の方に興味があったので、今回のゲームは作戦級の基本を踏襲しつつ攻め側守り側に分かれていたので筆者の要求を満たしていたゲームであった。
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コメント
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中嶋様どうもです。
短編には短編ならではの良さがあると思います。悪食な私は短編から超長編まで食べ散らかしていますが、短編だから食い足らんという事はありません。ちなみに全く関係ないかもしれませんが、小説では長編より短編の方が好きであったりします。
中嶋さんのおっしゃるように小さなゲームの方が作るのが難しいというのは、コマ数が少ないが故にゲームにおける個々のコマの重要性が高くなりがちであるがゆえに状況が急展開しやすくデバッグしにくいと言うことでは無かろうかと愚考します。
投稿: ぐちーず | 2008/06/24 23:10
お久しぶりです。「軽/薄/短な」駄菓子ゲームデザイナーです。この数年、この話題がよく各所で取り上げられているのですが、作り手から一言申し述べさせてください。まず、個人の家内制手工業で作成しているゲームでは、どうしても小型ゲームを選択せざるをえません。更に発表の可能性も大型ゲームよりは高くなります。更に「私観」ではある意味大きなゲームより小さなゲームの方が作成が難しいと思います。「大は小を兼ねる」ということわざには、「大きいものは小さな瑕疵も許されてしまう(=誤魔化せる。でも切り捨てられた「小の虫」はどうなってしまうんだ!)」という意味もあります。ポイントを絞り、想定されるエラーを潰し、地道に作成する「軽/薄/短な駄菓子ゲーム」を小生自身は愛好しております。ナマイキな言い方をすれば「中世社会」を舞台とする「重・厚・大」な他の同テーマゲームよりも、拙作の駄菓子ゲームの方が「社会派シミュレーションとしては」よくできていると身びいきしております(拙作の本義は「中世社会」のゲーム的再現であり、西暦21世紀現代人の心象風景である「歴史小説・ドラマ・映画等」のシミュレートではありません)。なお、この価値問題については、短編小説と長編小説が文学的にどっちが上か?という懐かしの論争を思い出します。資本主義的な「儲け」からすれば明らかに短編が負けですが、小生は短編の方が私的に好きなのです。
投稿: 中嶋 | 2008/06/24 20:44